企業にとって新たな取引先を見つけ出すことは、常に経営上の重要項目です。既に国内のあらゆる市場は成熟期に達しており、その先には縮小と衰退が待ち構えています。当然ながら、既存の取引先や流通チャネルだけでは売上を維持することが困難になるため、企業が生き残っていくためには新たな取引先と流通チャネルの開拓が最重要課題となります。
しかし、やらねばならないことはわかっていても、なかなか思うように進まないジレンマを抱えていることが多いのではないでしょうか。
そこで、今回は主にBtoB取引を行う企業を対象に、新規顧客開拓と販路開拓が上手くいかない理由と解決策について考えてみたいと思います。
1.「新規顧客開拓」と「販路開拓」の違い
本題に入る前にまず押さえておきたいのが、新規顧客開拓や販路開拓の意味の違いです。二つの言葉は、一見すると同じような意味合いとして混同して使われることが多いのですが、厳密には異なります。
新規顧客開拓
今まで取引のなかった、新たな取引先を見つけ出す行為。主に既存の取引先に類似する取引相手を増やすことを指す。
販路開拓
商品を幅広く流通させるための販売チャネルを新たに探し出す行為。主にメーカーや商社、卸売業者が既存の販売ルート以外へ商品を流す場合を指す。既存の流通チャネル内の販売店開拓はお客様開拓に該当する。
それぞれの違いが理解できたところで、自社が以下のどちらのケースに該当するかを見定め参考にしてください。
2.新規顧客開拓の場合
2-1.新規顧客開拓に苦戦するのは何故か?
新規顧客開拓に苦戦する最大の要因は、自社が提供する商品やサービスに同業他社との違いが打ち出せなくなっていることにあります。その理由は、市場の成熟化により似たような商品やサービスが溢れたことで、消費者はどの商品やサービスを購入しても大差がないと感じるようになっているからです。
自社が提供する商品やサービスに他と「差別化できるウリ」がないということです。
2-2.新規顧客開拓で陥りがちな落とし穴
商品やサービスに他社と差別化ができるウリがない状態で新規開拓すれば、営業マンはどこかに違いを見出し客先で対峙するしかありません。その典型パターンが価格と人柄です。
モノ余りの時代、開拓する客先には既に大抵の物は揃っています。そこへ営業マンから提案を持ちかけられたとしても、お客様は興味を示してはくれません。結果、ろくに話も聞いてもらえず門前払いされるのが関の山です。それでも中には、運よく商談の機会が得られる場合もあるでしょう。しかし、お客様は今までの商品・サービスとの違いがわからないため、必然的に商談は価格だけにフォーカスされます。当然ながら、お客様は既存業者より低い仕入れ値を要求してきますので、取引をするには要求に応じるほかありません。そうなれば、既存の業者もお客様を奪われまいと価格を下げてきます。結果、価格競争へと突入します。こうした価格競争の悪循環が続けば、やがては会社全体の収益性に大きな影響を及ぼすでしょう。
もう一つは、人柄の良さを違いとしてアピールするやり方です。営業マンは人柄の良さを最大限アピールして何とか取引にこぎつけようとします。もちろん、営業上相手に好印象を抱かせることは大切です。しかし、いくら営業マンが人柄の良さをアピールしたところで、それだけで取引には応じてくれないでしょう。
こうした個々の営業マンの資質による属人的な仕事のやり方では、業務の効率面においてムラが生じます。
やがて価格や人柄の違いで勝負をしても結果の出なかった営業マンの仕事へのモチベーションも下がり始めます。そして、こうした状態が長く続けば会社の業績もジリ貧になります。しかし、この問題は営業マンレベルではどうこうできるものではありません。あくまで経営レベルでしか解決できない問題なのです。
2-3.解決策
お客様に価格以外の魅力を感じてもらうためには、自社の商品やサービスに他と差別化できるウリを作り出す必要があります。そして、差別化するウリに、他では真似できない明確さを打ち出せれば、より強力な商品・サービスが出来上がります。
商品・サービスのウリを作るためには、まずは他との違いを生み出す仕組みづくりを行わねばなりません。その仕組みづくりの根幹をなすのがコアテクノロジー/コアプロセスの開発です。
コアテクノロジーは商品やサービスの核となっている技術、コアプロセスは手順(工程)のことを意味します。そして、このコアテクノロジー/コアプロセスの開発を経営レベルで戦略的に実行していきます。
自社に既に違いを生み出すコアテクノロジー/コアプロセスがある場合は、それに基づき商品・サービスを作り上げます。もしもコアテクノロジー/コアプロセスが違いを生み出す上で十分でないとすれば、新たにコアテクノロジー/コアプロセスを開発することになります。コアテクノロジー/コアプロセスや商品・サービスの開発にはいくつかの方法がありますが、代表的な手法を一部ご紹介します。
2-4.コアテクノロジー/コアプロセスのつくり方のヒント
足し算の発想
今までになかった機能やサービスを付加し、他とは異なる価値を提供する。
例:ユニクロのヒートテック:衣類の繊維に、高次元の発熱機能、保温機能、抗菌機能、ストレッチ機能を付加し、快適性をアップさせた。
引き算の発想
過剰な機能やサービスを捨てることで新たな価値を提供する。
例:QBハウス:洗髪や髭剃りなど従来の理容室では当たり前に行われていたサービスを省くことで、低料金かつ短時間でカットができる価値を提供した。
ネーミング
コアテクノロジー/コアプロセスに基づく商品・サービスに独自のネーミングを付けブランド化する。ネーミングを商標登録することで絶対無二の差別化ができる。
例:近大マグロ:近畿大学水産研究所が、これまで不可能だった養殖施設での人工孵化を実現した完全養殖マグロ。
3.販路開拓の場合
3-1.販路開拓に苦戦するのは何故か?
販路開拓においても新規お客様開拓と重なる部分はありますが、主に以下のような要因が挙げられます。
- 既に他社の類似商品を取り扱っているため、新たに商品ラインナップに加えるほどの魅力を感じてもらえない。
- 商品のブランド力がないため、お客様が取り扱いたいと思えない。
- 価格面でしか判断してもらえない。
3-2.販路開拓で陥りがちな落とし穴
まったく接点のなかった業界へ販路を開拓する際には、今までの業界と異なる商習慣が存在することがあります。初めて営業をする際には、こうしたルールに困惑してしまうことはよくあります。また、他の業界では自社の知名度を活かした営業のやり方が通用しないことも理解しておかねばなりません。
上述した理由から、お客様からの事前の引き合いは望めないため、こちらからアプローチを掛けるプッシュ型営業に走ってしまいがちです。さらには、何とか取引に漕ぎつけたいという思いから、ひたすら相手担当者に頭を下げるだけの「お願い営業」に終始してしまいます。そして、相手から出てくる言葉はムリなダンピングの要求ばかりで商品の良さなどは二の次。価格以外の部分にはほとんど興味を示してもらえません。取引を開始したければ、相手側の条件を丸呑みにするしかない。そんな状況に陥ってしまうでしょう。
3-3.解決策
相手側の条件を丸呑みにすることなく、できる限り有利な条件で取引を開始するためには、お客様から取り扱いたいと思わせることが肝です。
プッシュ型営業からプル型営業への転換
こちらからアプローチするプッシュ型営業では、相手主導になりがちです。相手から引き合いがあってから営業を行うプル型に転換できれば、商談も互いがイーブンな立ち位置で進めることができ、無理な要求を突き付けられることも少なくなります。
プッシュ型営業を実現するには、お客様に対する事前の情報発信を行う必要があります。情報を発信するには様々な方法がありますが、BtoB向けではウェブサイトと展示会を活用する方法が有効的です。
お客様は常に魅力ある商材を探しています。自社の商品の魅力をウェブサイトや展示会で発信し続けることで、お客様側からアプローチしてもらえる機会を増やしていきます。
展示会を有効活用する具体的な方法についてはこちらを参考にしてください。
成功展示会.com
ブランドを構築する
商品のブランド力は取引に大きく影響します。自社商品にブランド力がなければ、お客様は他社商品との差別化できないため、価格しか見てもらえません。仮に商品の品質が同等であったとしても、ブランド力がある方に高い価値を見出します。これは、高級ブランド商品と同じ工場で同じ製法で作られた物であっても、ブランドロゴが付いていると付いていないのでは価格に大きな差があることでも理解できるでしょう。
ブランドを構築することは簡単ではありませんが、成熟化したモノ余り時代においては、差別化の唯一の砦と言っても過言ではありません。また、ブランドは大企業だけが行うことでもありません。強いブランドづくりは、中小企業が生き残るための命綱になるのです。
ブランディングの詳細はこちらを参考にしてください。
ブランディングとは?共感や信頼を生みだすブランド戦略の本質
マーケティング戦略とプロモーションの最適化
展示会やウェブサイトでの情報発信、ブランドづくりは、ただ闇雲に行っていても成果は出ません。すべては企業のマーケティング戦略に基づいて遂行していきます。まずは効果性の高い戦略を立案し、その戦略をもとにプロモーション施策の戦術を最適化し効率性を高めていきます。
マーケティング戦略についてはこちらを参考にしてください。
マーケティング戦略は必要か?経営ビジョンとの整合性が重要
4.まとめ
新規顧客開拓であっても販路開拓であっても他との差別化が解決の糸口になります。
この機会に自社の商品・サービスにいかに差別化していくかを見直してみてはいかがでしょうか。