1.ブランディングとは何か?
ブランディングは、企業や組織の商品・サービスの価値をお客様から認知し肯定的な記憶を増やしていくための戦略です。その中でも、ブランディングによってブランドを構築することをブランド戦略といい、マーケティング全体において最重要戦略として位置付けられます。
ブランディングは古くから行われており、その対象は企業や組織・団体だけに留まらず、個人や商品、サービスなど多岐に渡ります。
2.ブランディングの本質
ブランディングの本質は「記憶の戦い」です。お客様との共感や信頼を通じ、いかに競合他社よりも自社の商品やサービスを肯定的な記憶として認知させることができるかが鍵を握ります。特に情報が氾濫する現代社会においては、次々に新たな記憶に上書きされてしまい、過去の記憶が忘れ去られたり、思い出す優先順位が入れ替わる可能性が高まります。では、お客様の頭の中にどのような記憶を植え付ければいいのでしょう。
それは、「○○だったら△△」という旗を立てることです。例えば、あなたが今から焼肉を食べに行くとします。頭の中にどんなお店(焼肉屋)が浮かびましたか?『焼肉だったら○○だな!』というように、どこか特定の焼肉屋が浮かんでいるはずです。その焼肉屋は、あなたの頭の中で、『旗が立っている=ブランディングが出来ている状態』といえるでしょう。売り手側の思いに共感・信頼し価値を感じているからこそ、あなたはその焼肉屋を選んでいるのです。
ブランディングは、売り手側の「こう在りたい!こう思われたい!」と、買い手側の「こう思う!こう感じる!」を一致させなければなりません。そのために売り手側は、「記憶のマネジメント」が必要になります。具体的には、「こう在りたい!こう思われたい!」という情報(ブランド要素)を、一貫性を持って意図的に発信し、それを継続的に行うのです。
- 一貫性⇒チラシや看板・ウェブサイトなどメディアごとでバラバラの主張をしない
- 意図的⇒お客様まかせの曖昧なイメージにしない
- 継続的⇒お客様の記憶から消去されないように続ける
このどれが欠けてもブランディングは上手くいきません。
買い手側は、売り手側の発信する情報や、様々なブランド体験の刺激を受けることで「こう思う!こう感じる!」という記憶を集積させていきます。やがては、売り手側が思い描くようなイメージとして認知され、常に記憶が再生されるようになります。
いつまでもお客様の中で「良い記憶」としてあり続けるためには、築き上げた記憶が消失したり悪い記憶に書き換わったりしてしまわぬよう、お客様のニーズを汲み取り、常にお客様の期待を裏切らない価値の提供を継続的に行うことが重要です。
3.ブランディングの目的とメリット
目的
お客様に肯定的な記憶を再生させ、絶対無二の差別化を行う。
- 機能やサービスだけでは違いを打ち出しにくくなっている時代において、ブランディングは誰にも侵されない差別化の唯一の砦となります。
メリット
- 安売り競争をしなくても売れるようになる。
- 口コミ、リピーターが増える。
- マーケティングコスト(新規客を獲得するコスト)が削減できる。
- お客様が記憶をショートカットできるため、検索の無駄な手間を減らせる。お客様から見つけてもらうサーチコストが減る。
- お客様に安定感や安心感を与えるため、お客様ロイヤルティが上がる。
- スタッフのモチベーションがアップし、離職率が下がる。
- 求人面で有利に展開しやすくなる。求人が楽になる。
その他、様々な効果が期待できます。
4.ブランディングを実践するための6ステップ「CoMPUTeB®」
ブランド戦略には様々なフレームワークや方法論が存在しますが、その多くは問題がある場合があると考えます。それは、フレームワークを進める際の手順として、STPや3C分析などから入ってしまうことです。
ブランドを築く上で最も大切なことは、企業の価値観に基づいた根源的な力(コア)であり、その部分が欠落したままブランディングを行っても成功する確率は非常に低くなります。
そうした理由から、私たちは、「CoMPUTeB®(コンピューティブ)」というフレームワークを提唱しています。
「CoMPUTeB®(コンピューティブ)」は、「Compute=計算する」と「B=ブランド」を掛け合わせ、「ブランドを創ることを計算する」という意味を持つ造語で、6つのステップの頭文字から成り立っています。
- 【ステップ1】Core:現在のコア、未来のコア、コアテクノロジー/コアプロセス
- 【ステップ2】Marketing Research:市場調査、市場選択
- 【ステップ3】Product:商品選択・開発・改良
- 【ステップ4】USP Marketing:USPマーケティング®
- 【ステップ5】Try & Error:トライ&エラー
- 【ステップ6】Brand:市場でブランド認知
ここからは、6つのステップを順に説明していきます。
【ステップ1】Core(コア)
Core(コア)とは、いかなる時も自社の座標軸に回帰できる価値観に基づいた根源的な力です。
初めに、企業にとって最大の資源(リソース)であり、現在までに築いてきた「根源的な価値観」(コア)を棚卸し、さらには付加価値を紡ぎ出している「核となっている技術や手順」(コアテクノロジー/コアプロセス)も棚卸します。棚卸の結果に基づきブランディングしていく商品の選定を行います。
以下の順に従い、自社のコアおよびコアテクノロジー/コアプロセスの棚卸しを行います。
- 1.現在のコアを知る:
「今まで築き上げてきた根源的な価値観は何か?」 - 2.未来のコアを決める:
「その価値観を使って未来にどう在りたいか?」 - 3.コアテクノロジー、コアプロセスを知っておいてどこを伸ばすか決める:
「粗利をもたらす源泉は何か?」 - 4. ブランディングしていく商品の選定を行う(仮決め):
「未来のコアを達成していくためには、自社のどの商品・サービスを選択すれば一番優位なのか?」
【ステップ2】Marketing Research(市場調査、市場選択)
「Marketing Research(マーケティング・リサーチ)」のステップでは、マーケティングのフレームワークを活用し、ブランディングする商品・サービスの市場調査および市場選択を行っていきます。フレームワークを使って調査・分析する内容は以下3つの項目です。
- 1.競合が提供できない自社とお客様との接点に着目し市場をセグメント化する。
- 2.ターゲットを絞り、市場においてのポジショニングを確認する。
- 3.自社の経営資源を投下する商圏を選定する
3C分析
3C分析とは、「消費者(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」の頭文字からを取った用語です。競合が提供できず、自社のみがお客様に提供できる領域を分析する手法です。「消費者」「競合」「自社」3つの円が重なったところはレッドオーシャン、自社と消費者の円のみが重なっているところがブルーオーシャンとなります。
※レッドオーシャン/ブルーオーシャン=レッドオーシャンは、血で血を洗う激しい価格競争が行われている市場。それに対するブルーオーシャンは、競合相手のいない未開拓の市場を表すマーケティング用語。
STP(マーケティング)
STPとは、「セグメント(Segmentation)」「ターゲット(Targeting)」「ポジショニング(Positioning)」の頭文字からを取った用語です。STPマーケティングとは、マーケティングの目的である「誰に」「何を」提供するのかを分析する手法です。
- セグメント:市場におけるお客様のニーズを分類・グループ化し市場を切り出す。その際に、地域的要因、人工的要因、価値観的要因の3つの角度から市場調査する。
- ターゲット:セグメントした市場において、自社のブランドがもっとも受け入れられるターゲットを明確にする。
- ポジショニング:ターゲットに対して、競合が提供できないポジションを確立するためにあらゆる角度から分析する。自社のブランドポジションを明確にする。
どの市場を選択するか?
ターゲットに対して、ブランドを浸透させていくためにもっとも有利な市場を選択します。地域・業界で1位になれる範囲はどこかを考慮してブランディングを実施していきます。
【ステップ3】Product(商品選択・開発・改良)
Product(プロダクト)のステップでは、市場でブランドを創っていくためにもっとも有利な商品・サービスを選択または改良・開発していきます。商品・サービスを選択する上で重要になるのが「ブランド戦略」と「ブランド・アイデンティティ(B.I)」の策定と、ステップ1で定めた企業の「未来のコア」と「ブランド戦略」「ブランド・アイデンティティ(B.I)」との整合性です。これら3つを合致させなければ共感や信頼を生みだすブランドを創りあげることはできないでしょう。
ブランド戦略の策定
ブランディングの目的は、『○○だったら△△』というように、お客様の頭の中で常に自社商品・サービスが再生される状態にすることです。この先の企業の収益は、いかにお客様の脳内に『○○だったら△△』という旗を立てることが出来るか否かが大きく影響します。ブランド戦略は、自社の商品・サービスに対するお客様の記憶を強化し刺激することができる最善の方法論です。
ブランド戦略は『○○だったら△△』という旗を立てる
・自社の○○だったら△△を策定する!
ブランド・アイデンティティ(B.I)
ブランド・アイデンティティは、『○○だったら△△』をお客様の記憶に浸透させていくための言葉を明確化したものです。『お客様にこう思われたい!』を端的に表します。また、ブランド・アイデンティティはインターナルブランディング(企業の内側に対するブランディング)においても重要です。そのためブランド・アイデンティティの言葉は、一言で社員全員が何をすべきかを明確になっていなければなりません。
○○だったら△△という旗を立てるために重要なブランド・アイデンティティ
・こうありたいということを明文化する(15文字以内が相応しい)
・唯一性、言い切り、「早い話、何なの?」を意識することがポイント
「未来のコア」「ブランド戦略」「ブランド・アイデンティティ」の整合性
「未来のコア」を達成するための「ブランド戦略」であり、「ブランド戦略」の効果を最大化させるための「ブランド・アイデンティ」になっていなければならないことから、3つの整合性を取ります。
プロダクトに必要な7つの要素の策定
「未来のコア」と「ブランド戦略」「ブランド・アイデンティティ」の整合性が取れたら、プロダクトに必要な7つの要素を策定していきます。プロダクトは、ステップ1のコア(Core)で仮決めしていた商品・サービスを、「コア」「コアテクノロジー/コアプロセス」をベースに3層構造で設計しなければなりません。。ここで、選択したプロダクトが3層構造になっていなければ、商品・サービスの選択の見直しまたは改良・開発を施します。
※コアテクノロジー/コアプロセス=商品・サービスの核となっている技術や手順(工程)
プロダクトを市場でブランディングしていく際に必要となる要素は7つあります。この各要素は人に例えると理解が深まるでしょう。
- ①製品・サービスのネーミング
その人を表す名前(名は体を表しているのがベスト)○○だったら△△という旗を立てるために重要。
ベネフィット性、記憶性、伝達性を要素を兼ね備えたネーミングにする。 - ②USPメッセージ(キャッチコピー)
その人の主張(私の個性があなたにこんなに役立ちます)をキャッチフレーズ化する。○○だったら△△という旗を立てるために重要なUSPをメッセージにする。
独自性+お客様メリット=「独自のウリ」(USP)
※USP(Unique Selling Proposition)=ユニークセリング・プロポジションの略語。 - ③メインビジュアル
USPメッセージを補完し、主張をお客様の長期記憶に残すための世界観を表した画像、写真。 - ④タグライン
その人を端的に言い表したもの。 - ⑤パーソナリティ
その人の性別、年齢、性格、職業、価値観、趣味、第一印象、行動範囲などを含めた人物像。 - ⑥トーン&マナー
その人の外見や佇まいを明確になる色使いを規定する。ロゴマークにも使用。 - ⑦ロゴマーク
①~⑥で策定したコンセプトを抽象化したロゴマークを作成する。
これら7つの要素を策定していく。商品・サービスのお客様メリットと②USPメッセージは「=」になります。
【ステップ4】USP Marketing(USPマーケティング®)
USP Marketing(USPマーケティング®)のステップでは、市場でブランドを創っていくために重要な要素である「USP」を軸に、プロモーション全般の目標設定・計画立案します。USPマーケティング®で実行する内容は以下の通りです。
※USP(Unique Selling Proposition)=他社の商品・サービスと差別化するための「独自のウリの提案」。
- 市場でブランドを創っていくために重要な要素である「USP」を軸に、マーケティング活動を行う。
- リアルの施策とネットの施策を組み合わせ、ブランドを市場に浸透させていくために最小の投資で最大の効果が得られるクロスメディア(媒体)を検討する。
- ブランドの浸透を最速化させるため、全体最適化したマーケティングプランを設計する。
- マーケティング施策を実行するために必要な販促ツール作成の計画を行う。
- 全体の進捗が俯瞰できるスケジュール表を作成する。
ポイント:プロダクトのUSPを軸とし、各マーケティング施策に一貫性を持たせること!
【ステップ5】Try & Error(トライ&エラー)
Try & Error(トライ&エラー)のステップでは、市場でブランドを創っていくために適切な「USPマーケティング®」を実施していきます。その際、過大な予算を投下する失敗はできるだけ避け、顧客心理に応じた「誰に」「何を」「どうやって」という適切な設計をできるだけ早い段階で構築します。
マーケティングベルコンベアーの設計
もっとも速くブランドを浸透させるために、マーケティングベルコンベアー(収益を上げるための最短の階段設計)を設計します。
それぞれの段階で最適な商品(オファー)と各施策の組み合わせを試行錯誤ながら実践します。
そして、消費者がどうやってブランドを体験していくかを明確に計画するとともに、プロモーションツールの改良を行います。
実践計画書の作成
マーケティングを実践するための計画および結果の検証を、以下の帳票などを使用し管理・運営します。
ポイント:常に策定したブランディングの内容にブレがないかを確認すること!
- マーケティング計画表
- ベルコンベアー設計書
- 結果分析表
推奨規定・禁止規定の策定
市場にブランドを浸透させていくにあたり、推奨する規定や禁止する規定を明記し、運営管理に活用します。
【ステップ6】Brand(市場でブランド認知)
Brand(市場でブランド認知)のステップでは、市場でブランドが創られているかを確認します。また、ブランドの構築状況において次のブランド戦略の展開を決めておくといいでしょう。
以下の項目を相対的に調べることで、ブランディングの効果およびブランドの浸透度を把握していきます。なお、アンケートなどを活用した認知度調査など、予算を掛ける調査方法は特に必要ありません。
- ブランドの指名検索数の推移(ウェブのアクセス解析ツールなどを活用)
- 新規お客様の増加具合
- リピート率の増加具合
- 紹介数の増加具合
- 売り上げの増加具合
- 粗利益の増加具合
これらの調査を定期的に行い、結果に基づき次の展開に繋げていきます。
以上までの6ステップが、CoMPUTeB®(コンピューティブ)のブランディング手法です。
6.まとめ
- ブランディングの本質は「記憶の戦い」。
- 「○○だったら△△」という旗をお客様の頭の中に立てる。
- 一貫性を持って意図的に情報を発信し、それを継続的に行う。
- お客様に肯定的な記憶を再生させ、絶対無二の差別化を行う。
- ブランドを構成する要素を理解し、ステップ通りにブランドを構築する。
- コアを重視したフレームワークでブランディングを設計し実践する。
- ブランド浸透度合いを計測し、ブレがないかをチェックする。
企業の規模の大きさに関わらず、市場が衰退し縮小する時代を生き残るためにもブランディングは必要不可欠です。この記事にあることを常に意識し、お客様から共感や信頼してもらえるブランド創りに役立ててください。